「完璧じゃなくていい、とにかく一年に一個やる」柴田産業が語る、地方企業の“攻め”の経営計画とDX

「どうせうちのような規模では、デジタル化なんて無理だ」「計画なんて作ったって、その通りにはいかない」……そんな諦めにも似た声が、地方の経営現場からは聞こえてくることがあります。
しかし、一戸町で林業・製材業を営む株式会社柴田産業の柴田 君也社長の言葉は、その固定観念を軽やかに、そして力強く打ち破ります。「完璧じゃなくていい、とにかく無理無理でもいいから一年に一個、新しいことにチャレンジする。それが癖付けになるんだ」
令和7年度「いわてビジネスイノベーションアワード」で大賞(岩手県知事賞)を受賞した同社。なぜ、数千万の精密機械を入れずに独自のDXを実現できたのか。なぜ、自らの手で子育て支援住宅まで手掛けるのか。受賞の背景にある「既存の価値観にとらわれない」経営の真髄と、外部支援機関である商工会を「使い倒す」ことの真意を伺いました。
経営計画は「自分の頭を整理するツール」
「正直言って、なんでうちが大賞なのかわかんないんだよ(笑)」。照れくさそうに笑う柴田社長ですが、その経営スタイルは極めて戦略的です。多くの経営者が「申請書を書くのが面倒だ」と敬遠する経営計画について、社長はこう断言します。
「自分の仕事を将来どうしたいかという『絵』がまずあって、それを実現するために今の立ち位置やハードルを把握しなきゃならない。そのためのツールが計画なんだ。書類作成は単なる申請業務じゃなくて、自分の頭の中を客観視して整理するためのプロセスなんですよ。」
補助金をもらうために無理やり計画をひねり出すのではなく、まず「自分はこうなりたい」という妄想や夢を具体化する。その過程で、自ずと必要な売上や販路、商品設計が見えてくるといいます。
補助金ありきではない、足元を固めるための「帳簿」と「ビジョン」
柴田産業も、かつては資金繰りに苦労した時期がありました。だからこそ、経営の基本にはシビアです。
「補助金ありきじゃダメ。まず帳簿を綺麗にして、確実な返済計画を立てる。それが経営の基本です。帳簿が綺麗じゃないと申請すらできないしね。返済が終わるまでの数年間、これくらい売らなきゃならない、そのためにはこの売り先でこの商品だ、という風に逆算して足元を固めていくんです」
こうした地道な積み重ねがあるからこそ、いざという時の投資判断に迷いがなくなります。

柴田流DX:数千万円の機械より、数千円のセンサーと「あり合わせ」の知恵
今回のアワードで高く評価されたのが、製材工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。通常、工場のデジタル化には数千万円から数億円の海外製精密機械が必要だと思われがちですが、柴田社長の考え方は違います。
「イタリア製のスキャナーを入れれば何千万とかかる。でも、うちはそこまでの精度は必要としてない。大まかに85%分かれば十分なんです。だったら、ラズベリーパイ(小型コンピューター)、安価な距離センサーを自分たちでアレンジして組み合わせればいい。あり合わせで十分機能するんですよ」
狙ったのは、劇的な自動化ではなく、現場の「一手間」を省くこと。経営者自らが現場で「いじる姿」を見せることで、従業員からも「この機械をあっちに動かしたい」「ここを一緒に回す方法はないか」と自発的な改善提案が出るようになったといいます。
「技術より人間性」――挨拶から始まる組織改革
どんなに優れた技術や設備があっても、それを活かすのは「人」です。柴田産業では、技術講習よりも「人間性を高める研修」に力を入れています。
「離職の原因の9割は人間関係。だから『ニコッと笑って挨拶しよう』というレベルから始めました。コミュニケーションを密に、なんて曖昧な目標じゃなく、具体的に何をやるかまで落とし込める人を育てたい。指摘する側も、自分はどうなんだと一度考えてから言う。そんな『人間作り』が、結果として現場のアジャスト能力を高めるんです」
地域内循環を創る:林業の力で「子供たちが住みたい町」へ
柴田産業の視線は、自社の利益を超えて地域全体に向けられています。
「日本の林業を世界レベルにすることと、一戸を子供たちが住みたいと思える町にすることを同時にやりたい。行政の計画を待っていたら時間がかかる。だから、宿泊施設や子育て支援住宅も、必要なら自分たちで作ります」
一般市民との接点を作ることで山の情報を得ることも大きなメリットと話します。
そうして官民の枠を超えた「地域内循環」の構築をスピーディーに進めています。「正解はどんどん変わっている。自分たちが計画を立てる側にならないと、いいところは全部地域外に持っていかれてしまう」という言葉には、地域経営者としての強い覚悟が滲みます。

最後に:商工会をもっと活用し、未来の「絵」を描こう
これから新しいことにチャレンジしたい企業に向けて、柴田社長はこうメッセージを送ります。
「世の中の人はまず欲得で動くから、入り口は補助金や計画の相談でいい。でも、商工会にはこんなに安価で教えてくれる機関があるんだから、もっと使い倒した方がいいですよ。職員さんと対話の窓口を作って、自分のやりたいことをぶつけてみる」
「完璧じゃなくていい。とにかく一年に一個やってみる。その『癖付け』が、数年後の大きな差になるはずです」
アワードの盾を自慢げに掲げて笑う柴田社長の姿は、現状に停滞を感じている多くの経営者にとって、未来を切り拓くヒントになるに違いありません。

インタビュー協力
株式会社柴田産業
岩手県二戸郡一戸町鳥越字上野平17
会社HP 株式会社 柴田産業 | 岩手の山を元気にする木材屋
