|
話は前に戻り、饅頭を背負った母親が長瀬橋を渡ると、何処からともなく人の騒ぎ声が聞こえてくる。
まだ暗くなったばかりなので、それ程恐怖を感じなかったが、小走りで先方へ急ぐと、丁度仁左平へ行くY字型の別れ道の処の道路上に、火を燃やしむしろを二、三枚も敷いてあろうか。そこへ若者らしい四、五人が座って大酒盛りをして賑やかにはしゃいでいた。
”あっ先き程の騒ぎ声はこれだったのか”と、先ず一安堵してその場を通り過ぎようとすると、「かが様一寸寄って行け」と声をかけられた。
相手の顔など燃えている火の明かりでよく見えないが、男女が交じっているようだった。”早く病院へ行かなければ”と思いながらも、折角親切に声をかけてくれた好意を無にするわけにもゆかず、むしろに一寸座って、訳の分からないような雑談を聞いている内に、辺りはすっかり暗くなり、気が気でなかったが・・・。
彼らの話の中に、「今武内さんの別当様から沢山頂いて来たものだ。」とむしろの上には酒の肴などが並べてあった。「遠慮しないで食え、飲め」と勧められた母親は、病院の事だけが気になって、食べることなく、病院で子供が待っているのでと断ってその場を立ち去った。
駆け足で病院に急ぎ病室に入ると、娘が今日は一時間も遅いと不機嫌だったが、饅頭で喜ばせようと背負っていた風呂敷きを下ろす間もなく、千切れた饅頭がぼろぼろと落ちて、風呂敷を広げると殆どまともなものが、一つもなく、折角娘へと背負ってきた風呂敷きを見て、只呆然とするばかりだった。
あの大酒盛りは狐達だったのかと思った瞬間、背筋が寒くなり急に恐怖を感ずるのだった。
|