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ところが何処からともなく出て来た狐が危害を加えないと見たのか、だんだん目時ナの傍へ近寄って来て、とうとうその魚を喰わえて立ち去った。
目時ナ心の中でああ良かった良かったと喜んだ。何にか善いことでもしたかのように、清々した心地だったのである。叺と引き裂かれる前に狐と妥協した方が良いと考えたのであろうと暫くして、再び曲がりくねった暗い坂道を降り初めようとすると、いきなり誰かが前に立って歩いている気配がした。
さて誰も居る筈がないのに、おかしいぞと思ってよく見ると、ほっかぶりをした小柄の未だ若い女の人が突然にぶらり提灯(細竹の柄の付いた提灯)を、下げて一緒に降りようとばかりに先に立ちふさがるようにして歩き出した。
さて目時ナは「おばんでごあし」とその女に声をかけられたが返事が低くて聞きとれなかった。今まで真暗闇で一寸先が見えなったのに、提灯の明かりで掘割の坂道も歩き易く何無くあっと言う間に平坦な鉄道際の道路に出てしまった。あまりの早さに狐に騙されたのでは、と疑って見る程だった。あれ程難儀した坂道も今日は提灯の明かりで大助かりだった。
目時ナは今の仕業は魚をもらった狐が、お礼のために明かりを灯して道案内をしてくれたのだ、と感謝の気持ちを忘れなかった。
その後も目時ナ爺様は、行商の帰りは必ず一匹の魚を残して来て、例の大岩のある所で狐に与えていた。狐の方も目時ナの帰りを大岩の所でじっと待って魚をもらうのだった。
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