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峠もはや上りつめる迄行っても雨も降らねば風も荒れない。「ハテ変だ、矢張りあれは噂に過ぎなかったのか。」と考えながら行くうちに、坂の傾斜も緩やかになったのでほっと一息。上を見ると実に醜き面相のいたこが降りて来た。「これだなあ。」と気を締めていると馬は急に後退りし、そのまま動こうとしない。
いたこは憎々しげに昇の顔を仰ぎ見て「けたけた」と笑った。「己れ、にっくき妖怪奴。」とばかり槍をしごいて一突き突けば「ギャッ」と叫んで姿は消えてしまったが、大事な槍は奪われてしまった。「これは困った。」と思ったが仕方がない。峠を降りて五戸に急いだ。
峠の麓は大雨風で大騒ぎであった。五戸に着くともぐり人をたのんだ。きっと妖怪は沼に沈んだと睨んだからである。
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