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猫 塚 物 語

 今から三百五十年位前、吉祥山猫蔵寺が第四世天朔(てんさく)和尚の時代でまだ山奥のほんのささやかな小さな寺であったころ、寺の門前に夫に早く先立たれたお福と遺(わす)れ形見の一人息子長松が住んでいた。お福は長松の成長を楽しみに寺の針仕事や村の賃仕事などに雇われて細々と暮らしていた。夏が過ぎ秋となり稲庭おろしが身にしみる淋しい或る夜のことだった。

 親子は炉端で松の根を焚いて明かりとし、お福は糸を紡ぎ、長松は手習いをしていた。

すると軒下で猫の悲しい鳴き声が聞こえた。二人が戸をあけ鳴き声のする方をすかして見ると、どこから迷って来たのか、一匹の痩せ衰えた子猫が哀れみを乞うように鳴いていた。慈悲深いお福と友達の欲しい長松は、直ぐに子猫を抱き家に入れた。

よくよく見れば、生まれて四・五か月位の雌の虎猫であった。

野良猫の子が母を失いよりどころが無く、家の灯りをたよりにここへ来たのであろうといじらしく思い、「トラ」と名付けて家族のように大変可愛がって育てていった。

トラはまるまると太り、毛並の良い可愛い猫になって親子の寵愛の元に月日が流れた。


 長松もいつしか十二歳となり、素直で賢い子供に成長し、習わぬお経を読むどころか一を聞いて十を知る神童であった。寺の天朔老師もそんな長松に眼をかけて、読み書き手習や行儀作法などを教えて可愛がり、お福を説得して弟子に貰った。


 長松は剃髪得度して大突(だいとつ)と名を改め、天朔老師に仕えた。やがて老師の遷化の後を継ぎ、福蔵寺第五世の住職となった。

 生みの親のお福は寄る年波に患うように仕事が出来なくなったが、息子のおかけで何不自由無く暮らしていた。

トラをわが子のように思って話しかけ、親しみも増々深くなっていった。トラも長年の養育に恩を感じているようにお福の傍を離れず、三十歳くらいの老齢でありながら子犬のように肥太り筋骨逞しく、お福に馴れ親しんでいた。


或夜「トラ」がお福の枕元に来て、「トラも三十年来並々ならぬ御世話を蒙りました。これまでお世話になりましたが、この度こそは、これまでの御恩に報ゆる時節が到来しました。

和尚様もやがて御出世なさります。トラの寿命もいくばくもなく、名残り惜しいけれどもお暇をいただきます。」といい、涙をながして何回も頭をさげ、暇を告げてそのままツイと家から出て行ってしまった。お福も何か言おうと、思わず「トラ」と呼んでみたが自分の声に驚いて目をあければ夢であった。

この日からトラの姿を見た者は誰もなかった。

 時も同じ慶長の初め頃、南部の殿様が亡くなられて福岡で葬式が行われることになった。

その葬式の最中に、突然怪しい大風が吹き、砂塵を巻き上げ黒い雲が下がって来た。天も地も見えなくなり、殿様のお棺が空中に巻き上げられてしまった。

この不意の出来事に、参列していた一門の諸士は慌てふためき愕然としていた。僧侶たちは必死に読経をしたが効き目がなく、ただ青ざめて途方にくれていた。

さらに近郷近在の弥宜や神主まで寄せ集め降伏の加持祈祷を命じたが、さっぱり其の効験がなかった。


 此時急使によって馳せ参じた福蔵寺第五世兀山大突(ごつざんだいとつ)和尚は、悠然として少しも騒がず、おもむろに数珠の玉を繰りながら仏に念じ、懸命に黙祷祈念をした。

するとたちまち風雲がおさまり、殿様のお棺はするすると元の座におりた。参列者達は蘇生の思いにほっと安堵の胸を撫でおろし、再び行列を立て直して首尾良く葬式を済ますことができた。

 
 福蔵寺住職のこの一大殊勲に対して、新藩主は大層感謝し当座の引出物を数々とらせ、尚その上に寺格を進め寺領三十石を賜った。これがそもそも寺門繁栄の端緒となったものである。


藩主葬儀の怪異を聞いたお福は、先のトラの夢を思い出してわが子である住職に事の始終を話した。

すべてはトラが親子の恩に報いるためにしたことであると知った大突たちは、檀家と図って寺の鬼門に当る森の中に猫塚を建立して霊をあがめ敬ったという。


 
 物語にある猫塚は現在福蔵寺にはなく、またかってどこに建立されていたのかも定かではない。しかし大正十一年、大般若堂の大修理の際、堂の天井裏の中心部に「猫」の頭骸骨が安置されているのが発見された。これにより寺に伝わる伝承が全くの作り話ではないということになり、時の住職・二十九世淵沢知明和尚がこの骨に三帰戒を授けさせ、発見された場所へ再び安置した。

また、この大修理を行った檀家の中心的存在であった其山小田島五郎は、「猫」の頭蓋骨発見を記念し、伝説を長く後世に伝えるために記念碑を建立してその由来と自身の句を刻んだ。なお、撰文と揮毫は当時浄法寺小学校の校長であった東山佐藤源八の手によるものだという。石工は目時長流である。


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