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昭和の五十六年、私が早稲田で遊んでいた三年生の時、私は卒業したら田中(義一)総理の秘書になることに決まっていた。当時村会議員であった湯端の和七郎も東京に時々出てくるものだから、この事を相談すると「政治をやるなら東京に居た方がよい。でも結局はお前は一人息子なのだから田中総理の秘書などやめて家に帰ったほうがよいさ」と言うのである。私は家に帰って相談してみようと、その夏一週間程帰ってみた。そのとき、私は生まれて初めて座敷わらしというものを見た。 私が帰郷すると仲間が四、五人訪ねて来て、座敷で飲んで解散したのは夜中の一時頃であった。私はその頃、一行でも二行でも本を見ないと眠れない癖がついていた。当時は電灯がやっとついて、十燭光ぐらいの薄暗いものであったから、その電灯を低く下げて本を見ていたら、枕元に人間のようなものが立っているのに気づいた。とたんに私はかなしばりのような状態になった。そしてそれが自由に戻ったと思った時には何も見えなかった。 かつて私の爺どもはよく座敷わらしの話をしていたけれども、明治の頃ならともかく、この昭和の御代にそんな事は絶対ある筈はないと思っていた。しかしどうもなんだかおかしい、ようしそれではこの正体を確かめようとこの部屋にずっと泊まった。 |