大沼の大蛇

 昔、金田一湯田の大沼地区の小高い場所に、相当大きい沼があった。周囲が二百五十米余りもあり、鯉鮒など泥鰌(どじょう)もいた。この大きい沼がこの地名大沼となったのであろう。この沼から一段と高いところに大沼神社があり、大沼の守護神であろう。現在、長谷川九内さんが神職をしておられる。沼の大きいこともさることながら、深いことでも有名であった。近所の人たちの話では底無し沼とも伝えられている。

 或る時、この沼の深さを計ってみようと百五十尺(四十五米)ばかりの縄へ石を付け、沈めて計ろうとしたがそこまで届かなかったと言う。藍色の水は大沼神社の木陰をうつしている。この沼には昔から一匹の主が住んで居た。誰が見たこともなしに主の正体は大蛇だと言うことであった。

 或る年、早ばつのため、さすがの大沼の水も日一日と水が減って行くのであった。若気にはやる青年たちが、沼の主大蛇を捕まえて見ようではないかとの相談さえも始まったのである。日一日と枯れて行く沼の水に浸かれきった大蛇は、眼下を流れる馬淵川を見てはたまりかね憧れるのであった。

 或る日、空が俄(にわか)に曇りどんよりした明方のこと、沼の上に黒い影が現れた。その途端、真っしぐらに馬淵川指して黒い何者かが頭上を走りだしたのである。この時、常日頃より仲間外れにされていた若者が、草刈に出かけようとして庭前へ出ると、すさまじい音をたてて黒い雲の何者かが真っしぐらに飛んでくる。驚いてその得体の知れぬものに目をみはったが、どうもそれが日頃から退治したいと人々の語っている沼の主らしい。

 一時はぞっとしたが、直ちに鎌が振り上げられたかと思うと確かに手応えがあった。手負いの沼の主は、再びものすごい勢いで下の小沼にかげをひそめた。とみるや否や天俄に曇り、降りも降ったり大豪雨が二日も続き、馬淵川の水は溢れ大沼一帯は大洪水となった。やがて水が退いた後も小沼の赤い血の色は除れなかったと言う。そんなことからこの沼を赤沼と呼ぶようになった。

 大沼の主はその後どうなったのであろうか。何処かの山で死んでいるのを見たという人もいる。又川を下って海へ出てしまったとも伝えられている。

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